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大阪地方裁判所 昭和57年(ワ)6924号 判決

原告

三木昌行

右訴訟代理人

鍛治巧

永吉孝夫

被告

槙山公男

右訴訟代理人

吉田亘

芹田幸子

主文

一  被告は、原告に対し、別紙物件目録(二)ないし(四)記載の各建物(別紙図面(一)記載の(B)、(G)、(H)の各建物)及び同図面記載の(A)地上の丸太・廃材、(C)地上の古瓦、(D)地上の古材、(E)地上の土管・バラス・古材、(F)地上の古材、(I)地上の廃材、(J)地上のパネル等建築資材・廃材の全てを収去して同目録(一)記載の土地を明渡せ。

二  被告は、原告に対し、昭和五七年八月一日から昭和五八年九月一五日まで一か月金四四万七四三八円、昭和五八年九月一六日から第一項の明渡ずみまで一か月四七万二九三五円の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は被告の負担とする。

事実《省略》

理由

一原告が東大阪市花園西町一丁目二六八番一の田地積二反四畝二一歩(旧二六八番一の土地)を所有していたこと、被告が別紙物件目録(一)記載の土地(本件土地)上に同目録(二)ないし(四)記載の各建物(本件各建物)を建設し別紙図面(一)表示の(A)、(C)ないし(F)、(I)、(J)の建築資材、廃材等を置いて本件土地を占有していること及び原告が被告に対し、昭和五七年六月二五日頃被告に到達した書面で本件土地を同年七月末日限り明渡すよう請求し本件土地の使用貸借契約を解約する旨の意思表示をしたことについては、当事者間に争いがない。

二そこで、原・被告間に本件土地の使用貸借契約が成立したか否かについて検討すると、〈証拠〉を総合すると、

原告は、昭和三五年、大阪市東成区所在の原告所有地が大阪市に収用されたため、その代替地として貸家と居宅を建築する目的で訴外西長一から旧二六八番一の土地を買い受けたこと、被告は、同年、原告から右収用地上の原告の貸家の解体工事を請負い、かつ原告の依頼を受けて旧二六八番一の土地について農地法五条の転用許可申請手続をしたうえ、右土地の造成工事をしてこれを宅地化したこと、原告は、被告に対し、昭和三八年、本件土地を右解体工事から生じた廃材の置場として期間の定めなく無償で貸与したこと、原告は、昭和四二年頃、本件土地の西側隣地上に文化住宅(アパート)を建築すべくその工事を被告に請負わせたが、その際被告に対し、右建築資材の保管のため本件土地上に別紙物件目録(三)記載の居宅(兼事務所)を築造し、かつ右居宅に被告の従業員高井行義が居住することを承諾したこと、原告は、その頃被告が本件土地上に同目録(二)及び(四)記載の物置と倉庫を建築したことを黙認したこと、原告と被告は、昭和四二年、共同で旧二六八番一の土地のうち北側部分につき建売住宅の分譲を計画し、被告が右土地上に建設した住宅を、原告がその敷地をそれぞれ販売(但し、一戸分の敷地は賃貸)し、あるいは原告が分譲する土地について被告が売買の仲介斡旋をしたこと、被告は、右建売住宅の建築中原告の了解を得て本件土地上に建築資材を置き、その一部を建築作業場として使用したこと、原告と被告の右建売住宅の分譲計画は、昭和四四年五月に一区画を訴外田中敬二に売却したことによつて終了したこと、被告は、その後も引続き建築業を営み他の工事に伴う建築資材、廃材を本件土地上に置いてきたが、原告はこれに対し格別異議を述べなかつたこと。

以上の事実が認められ、〈証拠〉のうち右認定に反する部分は採用し難く、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定の事実によれば、原告と被告との間で昭和三八年に本件土地につき被告の建築業務に伴う建築資材、廃材の置場とする目的で返還時期の定めのない使用貸借契約が成立したものと認めるのが相当である。

三〜四〈省略〉

五そこで、原・被告間の本件使用貸借契約が終了したか否かについて判断する。まず被告の本件土地の使用が民法五九七条二項本文の契約の目的に従つた使用収益を終えたものといえるか否かについて検討すると、原・被告間の本件土地の使用貸借契約が昭和三八年に被告の建築業務に伴う建築資材、廃材の置場として使用することを目的として成立し、被告が昭和四三年以降も建築業を営み建築工事から生じた建築資材、廃材等の置場として本件土地を使用してきたことは、先に認定したとおりであり、〈証拠〉によれば、被告は昭和五八年一一月一日時点においても本件土地上に建築業務より生じた建築資材、廃材等を置いていることが認められ、他に右認定に反する証拠はない。

以上の事実によれば、被告は現在も建築業を営み本件土地を建築資材、廃材置場として実際に使用しているものであるから、被告が本件土地につき契約の目的に従つた使用収益を終えたものということはできない。

六次に、被告において本件土地を契約の目的に従つた使用収益をするに足りる期間が経過したか否かについて検討すると、〈証拠〉によれば、被告が昭和三八年に本件土地上に廃材を置いて本件土地の使用を開始してから約二〇年間の長期間が経過し、被告はこの間原告から本件土地の無償使用を許され、建築業を営むうえで充分に恩恵に浴してきたこと、原告と被告が旧二六八番一の土地につき共同で計画し実施した建売住宅の分譲が昭和四四年五月に終了してからも一〇年以上が経過したこと、被告の建築業の仕事は年々少くなり受注額も減少していること、被告が本件土地上に建設した本件各建物(物置、居宅兼事務所、倉庫)はいずれも仮設のものであり、解体取壊しの比較的容易な構造であること、本件土地の周辺は、現在小規模住宅及びアパートが建ち並らぶ住宅地域となつており、本件土地を建築資材、廃材置場として使用するのでは、使用方法として効率が悪いこと、原告が昭和三八年以降納付してきた本件土地の公租公課は毎年相当の額に達し、昭和五七年度は年額三〇万九〇一八円、昭和五八年度は年額三五万〇五二五円であること、昭和四二年から本件土地上の居宅兼事務所に居住してきた分離前の相被告高井行義は昭和五五年に被告方を退職し、原告の明渡請求を認諾したこと(なお、右認諾の事実は、当裁判所に顕著である)、原告は、昭和五五年または昭和五六年に被告に対し口頭で本件土地の明渡を求めたが、その後一年ないし二年が経過したこと、以上の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

以上の事実に本件土地の使用貸借契約は無償契約であつて、被告が建築業を続ける間無期限、無制約に本件土地の使用を認める趣旨のものではないことをも併わせて考えると、昭和五七年六月末頃までには被告において本件土地を使用貸借契約の目的に従つた使用収益をするに足りる期間が経過したものと認めるのが相当であり、原告が民法五九七条二項但書により昭和五七年六月二五日頃被告に対してした本件使用貸借契約の解約の意思表示は有効というべきである。〈以下、省略〉

(小野剛)

物件目録〈省略〉

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